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2018年2月18日日曜日

『茜色の夕日』の歩み[志村正彦LN174]

 日曜日の朝、この原稿を書いている。
 二月の中旬を超え、厳しい寒さが次第に過ぎ去り、日差しが明るくやわらかくなってきた。今朝は快晴。『茜色の夕日』の「晴れた心の日曜日の朝」を想起させる。


  茜色の夕日眺めてたら
  少し思い出すものがありました
  晴れた心の日曜日の朝
  誰もいない道 歩いたこと


 『茜色の夕日』は歩むことの歌である。記憶への歩みであり、作中の世界でも歌の主体は歩いているという設定ではないだろうか。
 歌詞の引用部分は、「少し思い出すもの」、記憶の光景として、ある日曜の朝の「誰もいない道 歩いたこと」が浮かび上がってくる。「茜色の夕日眺めてたら」という時の只中で。これはあくまで推測であるが、歌の主体は夕日を眺める直前まで、街路か路地か散歩道かどこか分からないが、人通りのない道を一人で歩いていたのではないだろうか。そして、界隈が茜色に染まりだすのに気づくと、立ち止まり、「茜色の夕日」を眺める。歩行と停止、風景の色調の変化は回想を促す。思い出の中の「誰もいない道 歩いたこと」につながっていく。

 『茜色の夕日・線香花火』カセットテープ版『茜色の夕日』のイントロは、ドラムの細やかなリズムの刻みが楽曲のテンポとなり、歩行の律動を奏でているように聞える。オルガン音がのびやかに上昇しおだやかに下降するのも歩行時の身体の所作を思わせる。楽曲のテンポは完成版だとされる6thシングル版と比べるとかなり速い。

 『茜色の夕日』のスタジオ収録の四つの音源の演奏時間を比較してみる。音源時間の歩みを振り返りたい。


1.2001年夏(推定)カセットテープ版
    4分40秒 
( 志村正彦:ボーカル・ギター、渡辺隆之:ドラムス、田所幸子:キーボード、萩原彰人:ギター、加藤雄一:ベース )

2.2002年10月21日CDミニアルバム『アラカルト』版
    4分52秒
( 志村正彦:ボーカル・ギター、渡辺隆之:ドラムス、田所幸子:キーボード、萩原彰人:ギター、加藤雄一:ベース )

3.2004年2月CDミニアルバム『アラモルト』版
   5分12秒
( 志村正彦:ボーカル・ギター、金澤ダイスケ:キーボード、加藤慎一:ベース、山内総一郎:ギター、足立房文:ドラムス )

4.2005年9月6thシングル版・2005年11月2ndCDアルバム『FAB FOX』版
   5分36秒
( 志村正彦:ボーカル・ギター、金澤ダイスケ:キーボード、加藤慎一:ベース、山内総一郎:ギター、足立房文:ドラムス )


 再生ソフトの示す時間を読みとると、カセットテープ版 4:40→『アラカルト』版 4:52→『アラモルト』版 5:12→シングル・『FAB FOX』版 5:36 と、イントロ・間奏などのアレンジ面の差異を考慮しないでを単純に曲の時間で比べると、最終的には1分ほど長くなっている。

 歩行という視点から捉えなおすと、歩行の速度が次第にゆっくりとゆったりとしてきたと捉えることもできる。四つのヴァージョンを聴き比べると、『茜色の夕日』という歌の演奏時間は、志村正彦・フジファブリックの歩みの過程と共に、変化してきたことが伝わってくる。

  (この項続く)