プログ・ロック(イギリスではこの呼び方らしいのでこう記す)というと、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエスなどが知名度が高いが、ソフト・マシーン、キャラヴァン、マッチング・モール、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースなどのカンタベリー・ロック系のバンドにも、少数派かもしれないが熱心なファンがいる。僕もその一人だった。ジャズ・ロック風のサウンド、イギリスらしい知性や叙情性が感じられる歌詞、独特なアートやユーモアの感覚に魅了された。例を挙げると、ハットフィールド・アンド・ザ・ノース(Hatfield And The North)の『ザ・ロッターズ・クラブ』 (The Rotters Club)。ジャケットの絵とデザインが秀逸で、LPを部屋に飾っていた。デイヴ・シンクレアはこのバンドに在籍していたこともある。
先月、のんは自身のバンドを率いて『スーパーヒーローズツアーのん、参上!!!』と題する大阪、広島、福岡、宮城を巡るツアーを行い『若者のすべて』を歌ったそうだ。9月30日には日比谷野外音楽堂で「のん with SUPERHEROES」(仲井戸麗市バンドとのツーマンライブ)が予定されていたが、台風のために中止となってしまった。この公演であれば映像がどこかで見られるかもしれないという淡い期待もあったが、幻の公演となってしまった。
今回は、番組でもほんの少しだが紹介されたスガシカオ・桜井和寿・Bank Bandによる『若者のすべて』について書いてみたい。
幸いなことに先日、wowowで『ap bank fes 2018』が放送された。7/14から7/16の間、静岡つま恋で開催されたこのフェスを「前日祭・Day1」と「Day2」の二回に分けて収録したものである。スガシカオと桜井和寿がBank Bandの演奏に乗って『若者のすべて』を歌っていた。
(『若者のすべて』は「前日祭・Day1」に収録。10/16(火)午後1:00再放送予定)
スガシカオの声は艶やかでほのかな色気もある。五十歳を超えた年齢を感じさせない若々しさもある。言葉の拍の区切り方が明瞭だ。だから歌詞のひとつひとつが自然に聴き手に伝わってくる。数多くあるこの曲のカバーの中でも出色の出来映えだ。
桜井和寿はとても素直な歌いぶりだった。この曲のカバー音源の創始者にふさわしく、『若者のすべて』をリスペクトしている姿勢がうかがえた。スガシカオと桜井和寿の二人の声のハーモニーも美しかった。
Bank Bandの一員として、神宮司治(レミオロメン)がドラムを担当(河村智康とのツインドラムの一人として)。山梨出身の神宮司がリズムを刻んでいるのはやはり感慨深かった。ベースは亀田誠治。彼はフジファブリックのシングル『Suger!!』をプロデュース。ゆかりのある音楽家がステージで演奏していた。
2010年6月30日、『若者のすべて』カバーを収録したBank Bandのアルバム『沿志奏逢3』が発売された。「ap bank」の「エコレゾ ウェブ」の「沿志奏逢 3」Release Special には関連記事がたくさん掲載されている。リリースを告げる記事には、《櫻井が本作品の為に新たに選曲した「若者のすべて」(フジファブリック)、「有心論」(RADWIMPS)、「ハートビート」(GOING UNDER GROUND)など、Mr.Childrenよりも新しい世代のアーティストの楽曲にも敬意を持ってBank Bandがカバー/リアレンジしています》とある。関連記事として桜井と小林武史のインタビューも掲載されている。『若者のすべて』に言及している部分を引用してみよう。
番組はハリセンボンの近藤春菜によるナレーションで進行した。はじめに今年の夏に注目を浴びた『若者のすべて』MVの映像を流し、志村正彦の歌う表情が大きく映し出される。続いて、槇原敬之( Listen To The Music The Live 2014年)、桜井和寿・スガシカオ(ap bank fes 2018年)のライブ映像を紹介し、様々な大物アーティストにカバーされていることを伝えた。春菜さん自身、十年ほど前から大好きになったと述べていた。
『赤黄色の金木犀』MV、『陽炎』ライブ(渋谷公会堂 2006年)、『虹』ライブ(ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2008年)、『銀河』ライブ(COUNT DOWN JAPAN 0809年 → 富士五湖文化センター 2008年)でフジファブリックの歴史をまとめた後で、春菜さんのナレーションでこう告げられた。
渋谷に移動。開演まで時間があったので、途中にある「渋谷ヒカリエ」11階の「スカイロビー」へ。お上りさんが文字通りのお上りさんとなる。ここからの展望は建造物がミニチュアのように立ち並んで面白い。丹下健三が設計した国立代々木競技場の特徴ある屋根も見える。ここで開かれたブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドの初来日公演に出かけたことを思いだした。『BORN IN THE U.S.A.』の時代なので、そのパワフルな歌と演奏に圧倒された。調べると1985年4月開催、当時はまだ東京で暮らしていた。色々なことが記憶から遠ざかりつつある。
そんなことを考えていた昨日の午後、小袋成彬(おぶくろなりあき)という未知の音楽家が「フジロックフェスティバル '18」のRED MARQUEEステージで『若者のすべて』を歌ったことを知った。幸いなことに、この日のライブはyoutubeの「FUJI ROCK FESTIVAL '18 LIVE Sunday Channel 2」で中継されていた。LIVE映像を過去に巻き戻して、小袋成彬のステージを見ることができた。本人とギター、ベースの三人編成で『若者のすべて』の一番が演奏された。小袋の声はファルセットボイス。透き通るように広がっていく。この歌が新しい世代の音楽家たちにも愛されているのがとても嬉しい。
ただし、「運命」なんて便利なものでぼんやりさせて、のところを、「運命」なんて便利な言葉でぼんやりさせて、と歌ったのには疑問符が付く。おそらく間違いだったのだろうが、意図的だったとするなら、ここは「言葉」ではなく「もの」でなければならないと書いておきたい。それこそ、歌詞をぼんやりさせてしまう。
先週の日曜日、山中湖の平野に所用で行った。梅雨の季節のせいか人通りは少ない。このあたりはテニスコートが多いが閑散としている。少し時間があったので車で湖畔を一周していくと、すぐに「山中湖交流プラザきらら」を通り過ぎた。あの「SWEET LOVE SHOWER」の会場。何年前だろうか。フェス当日にたまたまこの道を通ったことがあるが、すごい賑わいと渋滞だった。会場から漏れる音が車内まで届いていた。
今日は時間があったので、フジファブリック『live at 富士五湖文化センター』を通しで見た。2時間の間、様々なことを想った。ライブの映像ゆえに情報量が多い。以前は気がつかなかったことが見えてくる。実際には行ってないライブについて書くというのも「記念日」便乗のようで抵抗がなくはないが、この日付が終わらないうちに書いておきたいことがある。