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2017年12月27日水曜日

SPARTA LOCALS『ウララ』(12/23 渋谷WWW X)

  前回に続き、「SPARTA LOCALS presents『TWO BEAT』:SPARTA LOCALS / Analogfish」(渋谷WWW X)について書きたい。
 
 そもそも「SPARTA LOCALS」というバンドを知ったのは、『美代子阿佐ヶ谷気分』(監督・坪田義史)という映画を通じてだった。公開は2009年。その翌年wowowで放送された際に見た。この作品は安部コウセイ・光弘の父母、安部愼一・美代子を描いた原作の漫画を映像化したもの。70年代初頭の阿佐ヶ谷を舞台に、漫画家の愼一と恋人の美代子の日々の光と影を描いた優れた映画だった。最後の方で時間は現在に変わり、安部愼一本人が登場する。主題歌はSPARTA LOCALS『水のようだ』。タイトルバックで彼らの演奏も映し出される。

 それからしばらくして、志村正彦・フジファブリックとの関係を知り、音源や映像をたどるようになった。
 始めてSPARTA LOCALSを聴いたときに二つのギターの音の絡み方やハイトーンのボイスに、ある種の懐かしさのようなものを感じた。英米のパンク、ニューウェイブ系のバンドに似ているサウンドがあった。どのバンドか、すぐには思いつかない。ネットで記事を探すと、安部コウセイがTelevisionからの影響を語っていた。なるほど、Tom Verlaine率いるTelevisionか。確かに似ている。僕はTelevisionをリアルタイムで聴いている世代だ。70年代ニューヨークのパンク・ニューウェイブの代表、Patti Smith、Talking Headsと共に、Televisionの『Marquee Moon』(1977年)、『Adventure』(1978年)は学生時代の愛聴盤だった。LPジャケットの写真も秀逸で「それらしさ」を醸し出していた。

 SPARTA LOCALSの特徴あるギターサウンドに乗って繰り広げられる歌の言葉には、どこにも帰属できない単独者の憂いや叫びがあった。持て余したような悲しみや怒りの陰影があった。それらと矛盾するようで矛盾しない、ほんわりしたユーモアもあった。そのようにしてかなり練り上げられた歌詞がサウンドと違和感なく融合している。ニューヨークパンクに起源のあるサウンドに優れた日本語歌詞が的確に乗っている。それは驚きであり新鮮な経験でもあった。「日本語パンク」(あえてそう位置づけよう)の伝統の中でもSPARTA LOCALSは独創的な位置を占めている。 2009年の解散時に志村正彦が「スパルタが解散したら、ロックシーンはどうなるんだ」と言ったのは、その言葉通りのきわめて正当な評価だろう。

 安部はSPARTA LOCALS再結成について言及した記事で、「HINTOもあって、堕落もあったから、スパルタを俯瞰で観れるようになった」と語っている。2017年の現在、彼らはHINTO、堕落モーションFOLK2、SPARTA LOCALSという三つのバンドで活動している。このトライアングルの存在自体が現在の音楽シーンできわめて貴重だ。その姿勢は真摯であり、自由であり愉快ですらある。

 今回のライブを前にあらためて7枚のアルバムを繰り返し聴いた。最も好きなのは3rdアルバム『SUN SUN SUN』冒頭曲の『ウララ』だ。冬が終わり春うららの季節を迎える「君」と「僕」の物語。「小さい雨」「なずなの群れ」に見られる季節感は福岡県田川の出身ということもあるのだろう。「ふるさとは今日も晴れてるらしいね/友だちの顔が少しよぎったんだ」にも、地方から上京した都市生活者の想いが自然に滲み出る。ほんのりした笑いもある。そして何よりも「忘れちまった事も忘れた 忘れちまった事も忘れた」には、阿部コウセイでしか伝えられない世界がある。

 12月23日の渋谷WWW X。Analogfishのステージが終わり、セッティング時間の後にドラムス中山昭仁のかけ声でSPARTA LOCALSのライブが始まった。伊東真一のギターも安部光広のベースも、あたりまえのことだが、HINTOとは異なる。ホールの音響特性もあり、音の塊感が尋常でない。容赦なくこちらにぶつかってくる。これがスパルタの音かと感慨が走る。でも解散前のことは分からない。これはやはり「2017年のSPARTA LOCALS」の音なのだろう。

 アンコール2曲目、最後の歌は『ウララ』だった。単純にうれしかった。少しやわらかな表情で歌うコウセイ。会場からの「カモン!カモン!カモン!」のやりとり。とてもいい雰囲気だった。
 この歌には、HINTOや堕落モーションFOLK2につながるエッセンスもある。歌詞の全編を引用してこの回を閉じたい。


 ウララ (作詞:阿部コウセイ 作曲:SPARTA LOCALS)


誰かの原チャリまたがって 君は笑う (カモン!カモン!カモン!)
日光とっても やさしいぜ 僕も笑う (カモン!カモン!カモン!)
 何かどーでもいい 理屈や不安に
 ちょっと溺れていた 冬は終わったんだ

ふんだりけったりされたって 僕は唄う (カモン!カモン!カモン!)
ハッタリ元気ふりしぼって 君はおどる (カモン!カモン!カモン!)
 全部わかるふりしなくてもいいかい?
 本当はいつでも こんがらがってんだ

生きてる事とかに緊張したって しょうがねーや
退屈すぎるけど それも嫌だって思わん

  小さい雨 なずなの群れを 濡らしている (カモン!カモン!カモン!)
  青すぎる空気吸い込んで 鼻が出たよ (カモン!カモン!カモン!)

 ふるさとは今日も晴れてるらしいね
 友だちの顔が少しよぎったんだ

世界のイカサマに落ち込んだって しょうがねーや
まじめな事とかは明日話そうか、温いから

  忘れちまった事も忘れた 忘れちまった事も忘れた
  忘れちまった事も忘れた 忘れちまった事も忘れた

 君はウララ 僕もウララさ

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