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2017年4月26日水曜日

Jack Bruce『Theme For An Imaginary Western』

 前回、Felix Pappalardiが歌う『Theme For An Imaginary Western』の映像を紹介した。ネットで関連映像を探すと、Jack Bruceがピアノ弾き語りで歌うものが見つかった。しかも、「Felix Pappalardi、我が友に捧げる」と告げて歌い出している。





 1990年10月17日、ドイツのテレビ音楽番組『Rockpalast』のために、ケルンのLive Music Hallで収録されたようだ。もともとこの歌は1969年リリースのJack Bruceのソロ1stアルバム 『Songs for a Tailor 』で発表された。プロデューサーはFelix Pappalardi。そのような関係から、後にMountainの1stアルバム『Climbing!』にも収録されたのだろう。
 作曲はJack Bruce。作詞のPete Brownは1940年生まれの朗読詩人、作詞家、歌手。Bruce/BrownのコンビでCreamの代表作を作った。
 歌詞を引いてみたい。

  When the wagons leave the city
  For the forest, and further on
  Painted wagons of the morning
  Dusty roads where they have gone
  Sometimes traveling through the darkness
  Met the summer coming home
  Fallen faces by the wayside
  Looked as if they might have known
  Oh the sun was in their eyes
  And the desert that dries
  In the country towns
  Where the laughter sounds

  Oh the dancing and the singing
  Oh the music when they played
  Oh the fires that they started
  Oh the girls with no regret
  Sometimes they found it
  Sometimes they kept it
  Often lost it on the way
  Fought each other to possess it
  Sometimes died in sight of day

 『想像されたウェスタンのテーマ』という直訳の邦題が付けられているように、架空のの西部劇の物語のための主題歌なのだろう。風景の描写が巧みでまさしく想像力が喚起される。しかし、歌の中心軸はつかみにくい。最後の部分で繰り返される「it」が何を指すのか判然としないからだ。歌詞の中のモチーフというよりも、「Theme For An Imaginary Western」という「Theme」自体を指し示しているのだろうか。私たちが探し続けている「it」としか名付けようのない何かなのか。聴き手にゆだねられていると考えてよいのか。

 それでも最後の「Sometimes died in sight of day」に引きずられて勝手に想像してみると、歌詞の全体が死者の視線からの光景を描き出しているようにも感じられる。これはFelix Pappalardiの死という事実から逆に投影された解釈であるのだろうが、この歌詞の描く風景の底にはある種の儚さ、朧げな感じが横たわり、生き生きとした実感がないことからも来ている。もう見ることのできない夢の中の光景のようでもある。

 このライブでJack Bruceは、人生の旅の途中で倒れたロック音楽の開拓者Felix Pappalardiに捧げてこの『Theme For An Imaginary Western』を歌ったのは間違いない。
 Jack Bruceも2014年10月25日に71歳で亡くなった。肝臓の病気が原因のようだ。
 ブルース・ロックを基調にしながら、その定型を超えて、サウンド面でも歌詞の面でも新しい世界を創造した貢献者が、Jack Bruce、Pete Brown、そしてFelix Pappalardiだった。「ロックンロール」とは異なる「ロック」音楽の源を彼らは造った。

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