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2013年1月4日金曜日

「偶景」の由来-《偶景web》について 2 [諸記]

 このブログの題名「偶景」は、フランスの批評家ロラン・バルトの著書《INCIDENTS》の邦訳書名『偶景』から借りてきたものである。
 
 「INCIDENT」は通常「出来事」「偶発事」などと訳されるようであるが、訳者の沢崎浩平氏は「偶景」という言葉を新たに造り、書名とした。バルトによれば、「偶景(アンシダン)」とは「偶発的な小さな出来事、日常の些事」であり、「人生の絨毯の上に木の葉のように舞い落ちてくるもの」を描く「短い書きつけ、俳句、寸描、意味の戯れ」のような類の文でもある。

 私は学生時代、仲間が主催していた、沢崎氏を師とする「ロラン・バルトを読む会」に参加する幸運に恵まれた。1988年、沢崎氏は55歳という若さでご逝去されたが、翻訳者本人からバルトを読む方法を学ぶことができたことを深く感謝している。実直で穏やかな氏から、バルトを巡る幾つかの挿話を伺った日々を、今、懐かしく思い出す。

 「偶景」は沢崎氏の造られた言葉、造語であり、未だに辞書にも掲載されていない言葉ではあるが、この言葉そのものとこの言葉が指し示す方法に強く惹かれるものがあり、このブログの題名とさせていただいた。

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